千葉大生が教える!「新世代職業ガイド」2013

千葉大学教育学部「キャリア教育」(2013・前期)では、ワークライフバランスなどに代表される、「新しい働き方」が求められる時代のキャリア教育のあり方について学びつつ、実際に「新しい働き方」に関するお仕事をされている方への取材活動を行っています。このブログでは、取材内容を、主に中学生を読者と想定した記事としてまとめ、発信をしていきます!

カテゴリ:2013 > 家族の世話をしながら働きやすい職場

【テーマ】家族の世話をしながら働きやすい職場(C班)
【取材先】有機農園けのひ 北原祥子さん
【メンバー】山田恵季 吉田季帆 石崎悠太 林大夢 星野彰太


 私たちの班では、「家族の世話をしながら働きやすい職場」というテーマを考えたときに、職場というのは、企業だけではなく、農業などの自営業もそれにあたると考えていました。そこに、脱サラをして、夫婦で農業を営みながら、3人のお子さんを育てているという「有機農園けのひ」の北原さんと出会いました。北原さんご夫婦は、お二人とももともとは、企業に就職をして働いていて、お二人ともが企業勤めの時に第一子を出産され、農園の開園に向けて、旦那さんの瞬さんが先に脱サラをされ、奥さんの祥子さんが企業勤めの時に第二子を、そして、祥子さんも脱サラをされ、二人が農家としてスタートし、今年の春に第三子を出産されました。今回は、企業勤めの時の子育てと、農家として働き始めてからの子育ての両方を経験されているということで、 有機農園けのひ の 北原祥子さんにお話を伺いました。

図1


有機農園けのひ 北原さんご夫婦は、東京都の八王子にて、農園を営んでいます。有機農園けのひでは、無農薬を掲げ、農薬を使うなら農業はやらないというこだわりをもって、大切に野菜を育てているそうです。また、一般の方を農園に招き、農業体験を兼ねた大豆栽培を行い、その収益をもってガーナのカカオ農家の就学支援をするという 「SOY for CACAO」というプロジェクトにも取り組んでおられるそうです。

図2


図3



北原祥子さんのキャリアと子育ての経緯 祥子さんはSEIYUで9年間働いて、色々な部署で仕事をし、キャリアを積まれていました。また、高校時代に一年間海外留学をして語学を磨いたことを生かして、米国のウォルマートから来た重役の方の秘書を務めるなど、多岐にわたって活躍されていました。第一子と第二子はSEIYU勤務時に出産され、仕事と育児の両方をこなされていました。

 第一子を出産したときは、SEIYUで育児休暇を1年4か月取得。
 (時期もあり、保育園に入れず延長。最大1年半まで育休可能)
 (旦那さんもサラリーマン@銀座勤務)
 第二子を出産した時は、SEIYUで育児休暇を1年ちょうど取得。
 (旦那は脱サラ、農業研修@成田)
 第三子も育休をとるようまわりからはすすめられたけれど、退職を選択。農家へ転職。
 (旦那は独立営農@八王子)

 
 この経緯を踏まえて、いくつか質問をさせていただきました!


●Q.SEIYU勤務時と現在(農家)で、子育ての環境はどう変化しましたか?

A. 【会社に勤めているとき】
 SEIYUには、育児休暇制度や、出産手当金、育児中の勤務時間短縮など支援制度は整っていて、復職する際も、産休中の部署の移動が禁止されているなど、職場に戻りやすい配慮がされていました。また、フレックスタイム制はなかったけれど、上司の了承をもらい、一時間勤務時間をシフトさせてもらって8時~16時で勤務をしていました。(本来は9時~18時勤務のところ、1時間短縮も含む)
 一日の生活は、
 通勤に片道1時間半~2時間かかるため、朝は4時起き、家事をしてから6時頃に電車に乗る。帰りは17:30に駅につき、保育園直行。会議や突発的な残業があると、両親に電話して保育園のお迎えを頼んでいた。さらに夕食まで食べさせておいてもらうこともあった。
 といった感じでした。
 会社勤務時は、生活をまわすのに必死で、子育てに時間をかけられませんでした。だけど、産休・育休中は、会社からお金もでるので収入の不安は少ない状態で育児に専念できるのは良い点でした。 
【農家として働いているとき】
 子育て中心の生活。農業はまだ二人で100%取り組めないけど、子どもが小さいうちだけなので、子育てを優先しています。産休・育休というものがないので、育児してるだけでは勝手にお金が入ってることがないので多少無理しても仕事をせざるを得ないときもあります。仕事内容としては、まだ生後3か月の子がいるので、私は家でケアしながら、農業事務作業をサポートする程度になっています。出荷が多い日は旦那だけでは間に合わないので、三番目の子供だけ連れて畑に行くこともあります。子どもたちが保育園に行っている間に家事ができるので帰宅後すぐにごはんを出せるし、一緒にあそぶ時間があるのはよいところです。

●Q.子供と触れ合う時間というのは変化がありましたか?

 A.会社に勤務していた時は帰宅してすぐ夕食の支度やお風呂などで子どもと遊ぶ時間はほとんどありませんでした。平日に子供と触れ合える時間はできましたが、今は、曜日は関係ないので、週末も家族全員でそろう時間は逆に少なくなっています。(基本的に父は畑へいっていて、子どもたちが半日畑で遊ぶこともあるが、お出かけなどはなかなかできない)




Q.なぜ農業をやろうと思ったのですか?
  また、キャリアへの未練はありませんでしたか?
 
 A.農業は、いつか二人で働けたらいいねという話をしていたところから、私が野菜に興味があり、瞬(旦那さん)が環境に興味があって、その二つを折り合わせて行きつきました。親戚の農家の様子をを幼少期に見ていたことも大きく影響していると思います。キャリアについては、私は西友で9年間働いて、色々な部署で仕事をしてスキルアップをしてきて自信もついてきてたから、キャリアに未練もありました。
辞めるのも悩んだけど、3人目の妊娠でなんか吹っ切れて、このままじゃキャリアを極めていくのも、子育ても、どちらも中途半端になっちゃう と思い辞める決断ができました。やっぱり、女性が子育てしながらキャリアも極めるってむずかしくて(男女平等と言えども、子育てにおいて女性しかこなせない役割が多いのも現実)…。でも自分の人生において、会社においてキャリアを極めることよりも、収入が少なくても有機農業をやること、子どもを産み育てることに価値を感じての選択なので、現状に後悔はないです。
 今では、お金で何でも買えてしまって、時間をかけないことも容易にできます。けれど、子育ても、農業も、生活も、その一つ一つに手間をかけて、付加価値をつけて豊かにしていこうと思っています。




最後に中学生に向けて、メッセージをお願いします!
 企業勤務していた時は、英語がとても役に立ちました。これからの時代は、海外とかかわることなしに生活していくのは無理だと思います。私は中学生の時に海外に関心を持ったおかげで、高校時代にホームステイをすることができて、それはキャリアにも大きく生きました。海外に関心を持ってください。
 もうひとつは、いまやっていることを一生懸命やってください。いま経験していることが将来的には財産になるし、キャリアにもつながっていくかもしれません!


図4




*インタビューを終えて
  職場の環境をよくして、働きやすくするという目的で、育児補助等の制度を設けている企業は授業でも多く見てきましたが、実際にその制度を使っていた人のお話を聞くことができて、制度の向こう側を見れた気がしました。また、働き方を変えていくというのも一つのキャリア形成の形であると思いました。制度を利用することによって子育てをしながら働くことはできても、それはちゃんと子育てをしているといえるのだろうか。 大きな問いをいただいたような気がしています。  


有機農園けのひ さんのブログ
http://blog.livedoor.jp/shun0301-notenki/archives/4500634.html
 
 









 

【テーマ】家族の世話をしながら働きやすい職場(A班)
【取材先】株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント 渉外部
      加藤 優さん
【メンバー】青山由佳 小林貴治 斉藤詢子 中村雅代 郷優里 高橋怜美


現在、夫婦共働きが珍しくない時代となってきており、子育てと仕事の両立を意識する傾向が強くなってきています。こうした傾向から、さまざまな企業側がその両立を重視した制度や環境の整備を行っています。 
私たちは、子育てをしながら働きやすい職場について調べ、ワークライフバランスの推進を行っている、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)という企業に取材に行ってきました。

まず、SCEがどのような企業なのかご紹介します
1374912758215●企業の理念
世界でいちばん面白いエンタテインメントを創る。
ゲームだけにとらわれず、他のエンタテインメントともクロスオーバーして、新たなエンターテインメントを提供していく。
●企業の事業内容
PlayStation®3、PlayStation®VitaおよびPSP®(PlayStation®Portable)関連ハードウェアおよびソフトウェアの企画・開発・製造・販売。会社訪問の受け入れや、子ども達へゲームを通したキャリア教育を行うなどの社会貢献活動も行っている。
●従業員数
約1400名(2013年4月1日現在)

今回は、こちらの企業の渉外部で働いていらっしゃる加藤優さんにお話をお伺いしました。
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Q1.ワークライフバランスなどに関連する、主な両立支援制度を教えてください。

子どもが1歳になる翌年度の4月15日までまたは1歳2か月に達する日の月末までの最大2年間、育児休暇を取ることができます。また、育児休職期間中は月額5万円の育児支援金が支給されます。さらに、子どもが小学3年生になるまでの間で3年間は育児短時間勤務という、9:30~16:30という子育てをする母親のための制度もあり、私は現在、この制度を利用しています。


Q2.加藤さんが働いている渉外部では、どのようなお仕事をされているのですか?

渉外部は主に警察や省庁、教育機関や学生などの外部との関わりを持つ仕事をしていて、中でも私は企業の教育貢献活動の仕事を担当しています。
職場環境は部署や仕事内容によっても異なりますが、相談すれば働きにくいということはなく、この環境は恵まれていると思います。ただ、やはり人と接する職業なので、約束のスケジュールを調整したりする面では大変さはあります


Q3.子育てと仕事の両立で一番大変なことは何ですか?

一番大変なのは、子どもが病気になった時ですかね。いろいろと周りの協力が必要になります。周りというのは、親や企業、保育園、地域などの全てのことです。けれど、子どもが病気の時には有給休暇を使うことができ、さらに制度もきちんとあるためそれで乗り越えていっています。


Q4.両立支援制度を取り入れるために企業内で行っている工夫はありますか?

社内の他の人が代替で仕事をカバーできることや、ジョブローテーション、時短勤務ができることなどですね。
他にも、SCEワーキングマザーズミーティングというものが年に1回あり、育児休業から復帰する際に仕事に復帰しやすくするための話し合いや、お母さん同士の交流の場が設けられたりしています。
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最後に…
中学生へのメッセージをお願いします。

今は友達との交流や部活動、勉強などやるべきことをしっかりやって、学生生活を楽しんでください。将来に関しても、やりたい仕事を選んでやれたらいいと思うし、そのためには努力も必要なので頑張ってください。また、仕事と結婚や出産を両立していくことなどを考えると、難しく感じるかも知れませんが、あまりネガティブに考える必要はありません。子育てと仕事の両立のために力を協力してくれる周りの人や環境に感謝して、その中で自分の力を発揮できる職場に巡り合えたらいいですね。


インタビューの内容は以上です。子育てと仕事の両立支援制度については、企業によってさまざま異なるとは思いますが、今後さらに制度の充実や環境の整備が進むとポジティブに考え、今やるべきことをやっていく中で、ゆっくりと時間をかけて自分の理想のライフスタイルについて各々考えていければいいなと思いました。

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【テーマ】家族の世話をしながら働きやすい職場(B班)
【取材先】株式会社アイエスエフネット
     代表取締役 渡邉 幸義さん
【メンバー】松岡由貴 長田準 島袋由衣 下山田詩織 山内美沙希 藁谷恵

私たちはテーマである『家族の世話をしながら働きやすい職場』を実践している企業に話を伺うことにしました。そこで見つけたのが、ISFnet Groupです。この企業は障がい者雇用やワークライフバランスに力を入れていて、第6回ワークライフバランス大賞受賞などの実績もあります。今回は、ISFnet Group 代表の渡邉幸義さんにお話を伺いました。

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ISFnet Groupとは?

「E&E (Eco&Employment)環境保護&雇用創造」をグループの大義としていて、IT事業をはじめとした多種多様な事業を展開し、あらゆる人々へ雇用環境を創出、やりがいを持って働くことのできる社会づくりに取り組んでいる企業グループです。グループの母体企業である(株)アイエスエフネットの仕事内容は、システム構築に関する設計、施行、保守およびコンサルタント業務、有料職業紹介業務、特定労働者派遣事業などであり、業種としては情報・通信に分類されます。また、人財/雇用創造/育成ソリューションとして行われていることには、障がい者雇用サポートサービスやニート・引きこもりの方々への就労環境の提供などがあります。具体例として、引きこもりの方に対する就労環境の提供は、グループ内にある就労支援を主としたNPO法人に入って1年間の訓練を受けてもらいます。初めは出勤して1時間オフィスにいて、徐々に時間を増やしていきます。その後、無事に卒業できてから雇用という形がとられていて、ただ雇うのではなく社会復帰から始めようというケアです。

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企業理念
まずは、渡邉さんがこの企業を立ち上げるまでの話を聞かせていただきました。22歳のとき外資系の企業で働き、32歳で独立、36歳で会社を立ち上げましたが、大きな借金を抱えてしまいました。そんな時でも、渡邉さんは必ず結果が出ると信じて経営の勉強を続けられ、ある人に「人として当たり前のことを当たり前にできることが大切なのだ」と教えられ、勉強に励んだ結果、今のように成長できたということです。
このような強い意志をもった渡邉さん率いるISFnet Groupの基本理念は、“ISFnetに関わるすべての人々の環境の創造と幸せの追究”です。お金や経営のことだけでなく、常に自分の判断軸が人とあっているか、人として正しい行動をしているかを考えることが大切にされています。
この理念に基づいて、ISFnet Group では、例えば従業員が病気にかかってしまってこれまで通りに働けなくなったとしても、その人の分を周りが頑張りフォローします。また、会社が危機的状況になった場合でも対応できるだけの貯蓄が行われています。これにより、従業員は安心して働くことができます。また、子どもが居る人のために託児所の設置や出勤時間の融通が利くなど環境が整えられており、育児休暇からの復職率はほぼ100%となっています。


ISFnet Group では、「20大雇用」という、様々な事情で就労が難しい方々に対して、安心して働ける環境を創造し、継続する取り組みが行われています。

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Q,「20大雇用」の考え方は素晴らしいと思いました。しかし、多様な人を受け入れることで、弊害が起きることもあると思いますが、気を付けていることはありますか?
A, 多様な人がいる中で、常に利他目線で行動することを意識しています。伸びている会社は、お客様の意見・要望に応えているから伸びているのであり、これは相手のことを考える利他目線にたっています。
  また、社員が言いたいことを言えないような会社は成長しません。一人ひとりに個性があるのに、みんな同じ行動をとるのはおかしなことです。そのような状況を防ぐためにも、積極的に社長にも意見が言える環境を整えています。具体的には、障がいがある方とのコミュニケーションをとり、障がいについて知るための講習や、本音を言う本音会議が開かれました。現在では、社長を筆頭にピラミッド体制をつくり、下から意見を吸い上げていき、解決策を作っています。
  そして、この社会で絶対的なことは「学生が納得できないことは、社会でも受け入れられない」ということです。この会社では、学生と社会のギャップがない世界を作りたいです。


Q,御社の最終的な目標は何ですか
A, 世界中に障がい者が働ける環境をつくることです。フィリピンやベトナムに進出する予定があるなど、今年は新たに3か国を作る予定です。世界195か国で障がい者雇用プログラムを作ることが目標です。


Q,中学生へメッセージをお願いします。
A,夢は持とうとして持てるものではありません。人として大切なこと、正しいことをやり、利他目線で行動して他人の欲を満たして初めて、自分のやりたいこと・やるべきことが見つかります。これが夢になり、夢が実現に近づけば目標に変わり、また夢ができるという循環が生まれます。これは、利己目線でいては続けられないことであり、一度正しくないことをすれば必ずボロがでます。だからこそ、利他目線で正しい行動をし、裏表のない世界作りが大切です。

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インタビューを終えて
 今回話を聞いていて、人として大切なこと・正しいことをするという理念が常に軸になっていて、渡邉さんが今までこの理念を信じ続けてきた心の強さを実感しました。今回案内していただいた中原さんは、渡邉さんの人柄、理念そして目をみてついて行こうと決めたそうです。このような理念のもとであれば、自分の家族に世話が必要な人がいても、周囲のサポートによって仕事と世話を両立させることができるでしょう。また、自分の意見を言いやすい環境があるため、両立のための要望をだしたり、苦痛をためずに話したりして、精神的にも余裕が生まれると思います。このような働き方が世界中に広まり、良い循環が生まれるといいです。

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